「国民の権利利益の実現」とは紛争解決を意味する。

前回は、行書業務の範囲としては、紛争に係わる法律事件は除かれるが例外として裁判所法33条(簡裁代理)の範囲とする140万円以下の軽微な法律事件は弁護士法72条の適用外となるので、行書業務の範囲に含まれる旨、私の解釈を述べたのですが、それに係わり、先の行書法改正にて、目的部分の条文に「国民の権利利益の実現に資する」が加えられたことに関する私なりの解釈を述べたいと思います・・

国民の権利利益の実現に資するとは、具体的に何に資するのか、ということですね。

まず、国民の権利利益についてですが、権利利益を聞いて思いつくのが、民法709条の「他人の権利又は法律上保護される利益」なんですね、実は、民709条は法改正以前は「他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ」と規定され、「保護される利益」は規定になかったんですね、つまり、法律上保護されるものは権利に限られ、単なる利益というだけでは、仮に他人による侵害行為があったとして、それを原因として損害を被ったとしても原則として損害賠償請求を認められなかった、とも解されるわけです。私はそれを「原則」としたのは、実際の裁判では法律上単なる利益の侵害というだけでは損害賠償請求は認められないが、実務上においては単なる利益の侵害といえども請求を認められていたという事実があるので、法改正により従前の権利に加えて利益を含めて国民の財産としての権利利益を法律上保護しようということになったのだと解されるからですね。

この権利利益は、例えば国民の行政庁に対する許認可申請の結果、許認可処分することで申請者に対する権利利益の供与の結果としての当該権利利益を意味するのと、法律上取得した権利利益があり、仮にその権利利益を侵害された場合においても法律上認められる範囲における権利利益の実現に資する、ということを意味するのだ、と私は解釈しますね・・

行書資格者の独占業務の範囲としては、権利義務に関する書類の作成代理相談業務がありますが、例えば、他人から依頼されて契約書の作成をして代理して契約して欲しいとした場合、その業務を代理して行った結果、依頼者と相手方との間に権利関係が発生することになる。その依頼者の権利利益の実現に資するとは、代理して契約をすることで権利を実現するということなのか、と思われますね、つまり、債権についてなんですが、債権というのは自然債権というものが存在し、その自然債権に国家による強制的実現の裏付けを得て債権が実現できる、その過程と、「国民の権利利益の実現」としているのかと私は解しますね・・

だから、現況の行書業務の範囲とは、単に書類作成するのみならず、国民の権利利益の実現までに及んでいるのだから、行書業務として、他人から依頼されて契約書等を作成し代理して契約した場合において、仮に相手方の債務不履行により債権が実現できない場合においては、督促することにより債務を履行するよう促すことも権利利益の実現行為ともなるのだけど、それでもなお債権を実現できない場合は、代理して訴訟を提起して債務名義を取得して強制執行して債権回収をすることも権利利益の実現行為となるのだと私は理解しますね。

だから、結論としては、行書法の目的規定の範囲としては、依頼人の権利利益を実現行為をするまでということだと思われるので、その範囲は単に債権の債務不履行のみならず、民709条の不法行為による損害賠償の範囲においても含まれるものと考えられますね・・まあ、しかし、これは弁護士法との兼ね合いということでしょうけど、先にも私は指摘したように、現況弁護士法は一般法に過ぎないから、行書法で具体的な業務範囲を特定し整備するだけで、債権の強制執行、不法行為に基づく損害賠償請求に至るまで行書業務の代理の範囲に含まれるのだ、と私は解釈するところですね。