弁護士法72条の適用範囲は・・


「被告は、令和3年2月1 0日付け被告第二準備書面第1において、 「本訴の争点は、原告が委託会社や地域スタッフに委託し、かつ、現実に行われている契約締結業務や収納業務が弁護士法72条に違反するか否かが主たる争点であると思料する。」としている。
そして、同第2において、「本訴の争点は、弁護士法7 2条に規定する『その他一般の法律事件に関し』、『その事務を取り扱』うとの要件に、本件事案が該当し、弁護士法72条に違反するか否かに尽きる。」とし、同第3においては、「NHKと受託会社の業務委託契約の内容は、『放送受信料の契約・収納業務』である(乙1 1号証)。」として、以下縷々述べている。原告との間で業務委託契約を締結した「地域スタッフ」と呼ばれる個人事業主や法人(企業)など外部委託先が、原告から委託された受信契約の取次ぎ等の業務を行うことについて、弁護士法72条違反にはならないことは、令和2 年1 2月1 1日付け準備書面2において主張しているところではあるが、被告   第二準備書面における上記主張に対する反論として、あらためて以下に述べる。
第2 外部委託先が原告から委託された受信契約の取次ぎ等の業務を行うことは弁護士法72条違反にならないことについて
1 弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」について
( 1 )弁護士法72条の内容
弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で「その他一般の法律事件」に関して法律事務を扱うことを業とすることを禁じている。
( 2 )最高裁平成2 2年決定
最高裁平成2 2年7月2 0日決定(刑集6 4巻5号7 9 3頁。以下、「最高裁平成2 2年決定」という。)は、被告人らの行った業務が「その他一般の法律事件」に該当するか否かが争われた事件で、「被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らか」であることを理由に 「その他一般の法律事件」に該当することを肯定している。
2 この最高裁決定は事例判断ではあるが、いかなる場合に「その他一般の法律事件」に該当するといえるのか、近時の最高裁の考え方を知る上で極めて重要である。
( 3 )被告は本件訴訟において最高裁平成2 2年決定に触れていないが参照すべきであること
被告は、本件訴訟において、弁護士法7 2条違反に関する裁判例を多数挙げて論じており、また、「本訴の争点は、弁護士法7 2条に規定する『その他一般の法律事件に関し』、『その事務を取り扱』うとの要件に、本件事案が該当し、弁護士法7 2条に違反するか否かに尽きる。」と認識しておきながら、この最高裁平成2 2年決定には触れていない。
しかし、「その他一般の法律事件」に該当するかどうかを議論するのであれば、近時の最高裁判例を参照する方が適切である。  
以下、この最高裁平成2 2年決定を踏まえて論ずる。
2原告が外部委託先に対して委託する業務は「その他一般の法律事件」に該当しないことについて
( 1 )原告が外部委託先に対して委託する業務の種類について
原告が業務委託契約を締結した「地域スタッフ」と呼ばれる個人事業主や法人(企業)など外部委託先に対して委託する業務のうち主なものとして、契約取次業務及び収納業務がある。
被告が証拠提出する「業務委託契約書」(乙1 1 )は原告と法人(企業) との間の業務委託契約に関するものであるが、受信契約の取次ぎの業務(以下、「契約取次業務」という。)は、「1委託事業名および内容」の
「( 1 )名称放送受信料の契約・収納業務」に続く「( 2 )内容」において、「①放送受信料の契約勧奨・取次業務およびこれに付随する事務」と記載されており、被告が「契約締結業務」と呼称するものがこれに該当する。また、受信料の収納業務(以下、「収納業務」という。)は、「業務委託契約書」の上記箇所に「②放送受信料の収納業務およびこれに付随する事務」、「③放送受信料の未収者および一部未納者に対する支払の督励業務および未収受信料の収納業務ならびにこれらに付随する事務」と記載され、被告も「収納業務」と呼称するものがこれに該当する。
( 2 )契約取次業務及び収納業務の内容
ア 契約取次業務
 契約取次業務は、受信設備の設置・契約種別の確認という事実確認と、それに基づく契約締結勧奨、任意に契約の締結に応じる場合に契約書への記入や支払方法の選択を説明するなどして放送法6 4条1項に定められた受信契約の締結義務に基づく契約の締結を取り次ぐ業務である。
具体的な業務の流れとしては、委託先(委託先が法人(企業)の場合にはその従業員)が受信契約を締結していない方の自宅を訪問して、原告の委託先であることを示したうえで、受信設備を設置されているかどうかを尋ね、設置されている場合には、受信することのできる放送の種類(地上放送、衛星放送)や受信料の支払方法などを確認し、受信契約書の所定の欄へお名前とご住所等のご記入と押印をお願いすることとしている(甲2 ) 
この点、最高裁大法廷平成2 9年1 2月6日判決が、「放送法による二本立て体制の下での公共放送を担う原告の財政的基盤を安定的に確保するためには、基本的にほ、原告が、受信設備設置者に対し、同法に定められた原止の目的、業務内容等を説明するなどして、受信契約の締結に理解が得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。」と判示しているとおり(以下、「大法廷判決」という。甲3、1 1頁1 6行目以下。)、受信契約は、受信設備設置者が任意に締結するのが原則である。そして、このような受信設備設置者が任意に応じる場合に、契約の勧奨や契約書の記入等契約の締結を取り次ぐ業務を、委託先の地域スタッフや法人に対して業務委託しているのである。
これに対し、受信設備設置者が任意に受信契約を締結しない場合には、原告は、やむを得ず、大法廷判決も認めるとおり、放送法64条1項に基づき、その者に対して受信契約の承諾の意思表示を命ずる判決を求めて提訴することがあるが、そのような法的手続(その前段階の内容証明郵便等での請求業務や法的手続の準備業務も含む。以下、同じ。)の業務は、原告職員や原告から委託された弁護士が担当しており、地域スタッフや法人に当該業務を委託することは一切ない。
イ収納業務
 次に、収納業務は、受信契約を締結し、受信料の支払い義務があるが、長期にわたり受信料が未払いである受信契約者に対して支払いの再開を促し、任意で応じる場合にその受信料を収納する業務である。
これに対し、任意での支払い再開の呼びかけに全く応ずることなく、受信料の未払いを継続している受信契約者に対して、原告は、やむを得ず受信契約に基づき未払い受信料の支払いを求めて、簡易裁判所において支払督促を申し立てることがあるが、そのような法的手続の業務は、原告職員や原告から委託された弁護士が担当しており、地域スタッフや法人が当該業務に関与することは一切ない。

(4) 契約取次業務及び収納業務は「法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るもの」ではないこと
 このように、原告が外部委託先に対して委託する契約取次業務及び収納業務は、いずれも、任意での契約締結や受信料の支払い再開等を求めるものであり、相手方が受信設備の設置事実を否定して受信契約の締結に応じない場合や受信契約の成立自体を争い受信料の支払い義務を否定する場合などには、それ以上業務を継続することは予定されていない。
 以上のとおりの原告が外部委託先に対して委託する契約取次業務や収納業務の内容に鑑みると、最高裁平成2 2年決定において「法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件」であるとされた上で弁護士法7 2条違反と認定されたいわゆる地上げ案件における建物明渡交渉業務とは異なる。
すなわち、最高裁平成2 2年決定の事案で問題とされた業務は、「賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであった」とされている。このように、賃貸借契約期間中で立ち退き義務がない賃借人に対して、合意解除と明渡しを求めて新たに交渉する業務であるため、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額等の交渉において解決しなければならない「法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るもの」という評価がされている。
 これに対し、原告が外部委託先に対して委託する契約取次業務及び収納業務は、受信設備の設置・契約種別の確認という事実確認に基づいて、放送法・ 6 4条1項により受信契約締結義務があると考えられる受信設備設置者に対して、任意での契約締結を勧奨する業務(契約取次業務)や、受信契約を締結し、受信料の支払い義務があるが、長期にわたり受信料が未払いである受信契約者に対して、支払い再開を促し、任意で応じる場合にその受信料を収納する業務(収納業務)である。すなわち、これらの業務は、一定の事実関係に基づいて受信契約締結義務や受信料の支払い義務がある者に対し、任意でその義務の履行に応じることを求めるものであり、上記地上げ案件のように、賃貸借契約期間中で元々立ち退き義務がない賃借人に対して、立ち退きや立ち退き料等について合意をして権利義務関係を設定し直すような難解な法律問題を必然的に伴う交渉をするような業務ではない。
よって、「法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件」を取り扱う業務であると評価することは不可能である。
さらに、原告が外部委託先に対して委託するこれらの契約取次業務や収納業務は、一定の事実関係に基づいて受信契約締結義務や受信料の支払い義務がある者について、任意でその義務の履行に応じることを求めるものであるから、受信契約締結義務を定めた放送法6 4条1項の趣旨や大法廷判決の考え方に合致し、受信料の公平負担に資する業務であると評価されることはあっても、最高裁昭和4 6年7月1 4日大法廷判決(刑集2 5巻5号6 9 0 頁)が判示する「これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公平かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになる」業務に該当しないことは明らかであることから、弁護士法 7 2条の趣旨に違反する業務でないことは疑いの余地がない。
以上の結論は、極めて長期間(記録に残っている限りでも、現在の原告の前身である社団法人日本放送協会であった昭和5年から外部への業務委託が行われていた。)、地域スタッフや法人などの委託先が原告の営業活動を中心的に支えてきたものであるが、その間、刑事事件においてはもちろんのこと、民事事件においても弁護士法7 2条に違反するとの認定を一度も受けたことがないという実務的実態にも整合するものである。  
なお、「日本放送協会(NHK)の受信料収納業務について」(乙3 )の 4頁において、「お客様と面接し、受信料制度の理解をいただいた上で、契約し受信料をお支払いいただくことを基本としています。面接できない、理解をいただけないといった場合は、未契約または未収の状態が発生します。平成1 8年1 1月より民事手続きによる支払い督促を行っています。誠心誠意ご理解を求め、それでもなおお支払いいただけない場合の最後の方法として実施。」、5頁に「お支払いいただけない場合にはいずれ支払督促を申し立てることを前提とした未収受信料の請求や、支払督促申立ての手続きについては、弁護士法第7 2条(非弁護士の法律事務の取り扱い等の禁止) に抵触するため、職員でなければ実施できません。」などと記載されているのは、以上の実務的実態に即したものである。
3小括
以上に述べてきたとおり、原告が外部委託先に対して委託する契約取次業務及び収納業務は、「法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件」には該当せず、弁護士法7 2条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから、弁護士法7 2条に違反しない。
第3 結語
以上のとおり、弁護士法7 2条違反をいう被告の主張は失当であり、原告の請求が速やかに認容されるべきである。」

「NHKをぶっ壊ぁーす」の関連の訴訟らしいのですが・・何らかの理由でNHKから訴えを起こされた被告が、NHKが他業者に委託する契約取次業務及び収納業務は弁護士法72条の「その他一般の法律事務」にあたり、いわゆる非弁行為に適用される云々主張してるらしい・・

行政書士と弁護士との業際で揉めると、「法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件」であるか否かというのが争点になるんですね・・それが曖昧でよくわからない・・ということは以前述べたところです。その曖昧でよくわからない部分で、当「NHKをぶっ壊ぁーす」訴訟で触れているところがおもしろいですね・・

当訴訟での被告側の主張としては、恐らく従前から弁護士会が主張するところの、いわゆる事件性不要説に基づき、「その他一般の法律事務」は非弁護士の取扱いは許されない、という立場に立っているものと考えられますね・・しかし一方で、判例の支持するのは、いわゆる事件性必要説であって、弁護士法72条の適用できる範囲は、法律事務すべてではなく、厳密に事件性のある案件に関する鑑定、代理、仲裁その他のこれに類する法律事件に関するのみ、であるとするもの。だから、NHK側は、判例を引用して、「法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件」であるか否かということを主張しているわけだ。

だから、当訴訟は、従前から弁護士会が主張するところの、いわゆる事件性不要説VS判例の事件性必要説、とのバトルなのだと思うけれど、これはもうはや検証するまでもなく、後者の事件性必要性が支持されるだろうことは明らかであるから、当訴訟の争点は、NHKの委託した業者が契約上の範囲を超えて別途新たな契約等をして法的紛議が生じているのかということになるでしょう・・

その当該委託業者の業務の実態はよくわからないが、単に契約取次業務や集金業務の範囲であれば当然として「法的紛議が生じることがほぼ不可避な案件」にはあたらない。そうすると、被告側の主張は採用できない、ということになるんだろう。

私的には、当裁判の結果はNHKの請求が認められると考えますが、被告側が弁護士会の主張する事件性不要説に立った主張をしているところがおもしろいですね・・真剣に主張してるのだとすれば滑稽だなって思う。逆に万が一被告の主張が認められようなら、日本全国津々浦々、弁護士以外の者が法律事務をする度に弁護士法72条適用がなされ逮捕者続出になり、あげくにNHKの集金業務も弁護士独占業務になってしまいかねないからだ。

確かに従前の弁護士会の主張を真に受けると、契約取次業務は弁護士法違反の容疑を受けかねないだろうと思いますが・・「一定の事実関係に基づいて受信契約締結義務や受信料の支払い義務がある者について、任意でその義務の履行に応じることを求めるもの」といえるから、この種の業務は債務履行を請求するだけの行為だから事実行為の範囲に含まれるのだろうと解釈できますね・・

結局のところ、当訴訟は、弁護士法72条の適用範囲として、事件性不要説VS判例の事件性必要説 の再確認という事案だなって認識です。