「いわゆる付随行為論の検討一 被告人・弁護人は、前記のとおり、登記原因証書作成に付随して登記申請代理を行うことは正当な職務の範囲内にあり、司法書士法19条1項に反しない旨主張するので、司法書士及び行政書士の各制度の沿革等に遡って検討することとする。
司法書士及び行政書士の各制度の沿革
1 現在の司法書士及び行政書士の前身となる代書人は、司法省の職務制度について定めた司法職務定制(明治5年8月3日太政官無号達)により制度化され、その職務については、「各区代書人ヲ置キ各人民ノ訴状ヲ調成シテ其詞訟ノ遺漏無カラシム」(42条第1)と規定された。また、訴状等の記載事項について定めた訴答文例(明治6年7月17日太政官第247号)の3条及び34条は、訴状及び答書の作成には代書人を用いるべき旨を定めていたが、明治8年には本人が自署することも認められた。
2 ところで、旧登記法(明治19年8月13日法律第1号)は、登記事務を治安裁判所が取り扱うものと定めた。その後、裁判所構成法(明治23年4月21日法律第6号)により登記事務は区裁判所において非訟事件として取り扱うものとされたが、日本国憲法の施行に伴い、登記事務が行政事務として行政組織に所属するものとされた昭和22年以降、登記事務が裁判所から分れたものである。
3 明治30年代後半ないし明治40年ころ、各府県令により、代書人が他人の訴訟行為に関与すること等を取り締まる規則が制定されたが、右規則の1つである代書人取締規則(明治36年8月24日大阪府令第60号)では、代書人の定義として「他人ノ委託ニ依リ料金ヲ受ケ文書ノ代書ヲ業トスル者」とされた。また、大阪地方裁判所が定めた区裁判所及出張所構内代書人取締規則(明治40年6月28日制定のものを大正4年4月16日改正施行したもの)において、
「代書人ハ代書業務ノ附随トシテ左ニ記載シタル事項ニ限り之ヲ為スコトヲ得
一 訴訟記録閲覧ノ付添ヲ為スコト
二 訴訟事件ニ付住所ノ引受ヲ為スコト
三 非訟事件ニ付キ代理ヲ為スコト
四 登記申請ニ付代理ヲ為スコト」(8条)
と規定され、代書人は、代書業務に附随して登記申請につき代理をなすことができると考えられていた。
4 大正8年、司法代書人法(大正8年4月10日法律第48号)が制定され、「本法ニ於テ司法代書人ト称スルハ他人ノ嘱託ヲ受ケ裁判所及検事局ニ提出スヘキ書類ノ作成ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ」と定められ(1条)、司法代書人による登記申請書類の代書は、裁判所に提出する書類ということで業務として是認された。また、司法代書人となるには地方裁判所長の認可が必要とされ(4条)、また、司法代書人は、地方裁判所に所属し(2条)、地方裁判所長の監督を受けるものとされた(3条1項)。
5 大正9年、代書人規則(大正9年11月25日内務省令第40号)が制定され、「本法ニ於テ代書人ト称スルハ他ノ法令ニ依ラスシテ他人ノ嘱託ヲ受ケ官公署ニ提出スヘキ書類其ノ他権利義務又ハ事実証明ニ関スル書類ノ作製ヲ業トスル者ヲ謂フ」と定められ(1条)、代書人となるには警察官署の許可が必要とされ(2条)、警察官署は代書人の事務所を臨検する権限が与えられた(13条)。
さらに、同規則17条に「本令其ノ他ノ法令ニ依リ許可又ハ認可ヲ受ケスシテ代書ノ業ヲ為シタル者ハ拘留又ハ科料ニ処ス」と規定されて、所属裁判所長の認可を受けずに司法代書人の業務を行った場合には処罰の対象となった。そして、大正10年には、司法代書人の認可を得ていない者が司法代書人の業務範囲に属する事項を業として行った事案について、その者が代書人規則による代書人の許可を受けていると否とに関係なく、代書人規則17条違反の罪が成立する旨を述べた大審院裁判例がある(大正10年5月25日宣告・大審院刑事判決録第27輯第13巻484頁、487頁)。
6 昭和10年、司法代書人の呼称が司法書士と改められた(昭和10年4月4日法律第36号)。
7 昭和25年、司法書士法が全部改正され(昭和25年5月22日法律第197号)、「司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を代つて作成することを業とする。」(1条1項)と定められ、また、「司法書士でない者は、第1条に規定する業務を行つてはならない。但し、他の法律に別段の定がある場合又は正当の業務に附随して行う場合は、この限りでない。」とされ、非司法書士の取締規定(19条1項)及びこれに違反した場合の罰則規定(23条1項)が設けられた。
昭和26年、司法書士法の改正により、19条1項のうち「又は正当の業務に附随して行う場合」が削除された(昭和26年6月13日法律第235号)。
昭和42年、司法書士法の改正により(昭和42年7月18日法律第66号)、1条1項が「司法書士は、他人の嘱託を受けて、その者が裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成し、及び登記又は供託に関する手続を代わつてすることを業とする。」と改正され、司法書士の職務は、単なる登記申請書の代書だけでなく、嘱託人からの委任を受け、完結するまでの一連の手続を代理して行うことができる旨明記された。
さらに、昭和53年、司法書士法の改正により(昭和53年6月23日法律第82号)、目的規定が設けられるとともに(1条)、業務については
「司法書士は、他人の嘱託を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
二 裁判所、検察庁又は法務局若しくは地方法務局に提出する書類を作成すること。
三 (省略)」(2条1項)
と定められ、登記手続代理の趣旨が明確化された。
8 他方、代書人規則は、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律(昭和22年4月18日法律第72号)により、昭和22年12月31日限りで失効し、以後、各都道府県の条例により代書人の業務の規制がなされていたが、昭和26年、行政書士法が制定され(昭和26年2月22日法律第4号)、「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。」(1条1項)と定められた。また、「行政書士でない者は、第1条に規定する業務を行うことができない。但し、他の法律に別段の定がある場合及び正当の業務に附随して行う場合は、この限りでない。」との非行政書士の取締規定(19条1項)及びこれに違反した場合の罰則規定(21条)が設けられた。
昭和39年、行政書士法の改正により(昭和39年6月2日法律第93号)、行政書士が業として作成する書類に「実地調査に基づく図面類」が含まれることが明文化され(1条1項)、また、行政書士法19条1項のうち「及び正当の業務に附随して行う場合」が削除された。
昭和55年、行政書士法の改正により(昭和55年4月30日法律第29号)、「行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、同条の規定により行政書士が作成することができる書類を官公署に提出する手続を代わって行い、又は当該書類の作成について相談に応ずることを業とすることができる。」(1条の2)とされたが、非行政書士が1条の2規定の業務を行うことを取り締まる規定は設けられなかった。
三 判断
1 以上の沿革、就中、裁判所が取り扱うものとされていた当初の登記事務について、提出すべき書類の代書及び申請の代理は、代書人の業務とされていたこと、司法代書人法及び代書人規則の規定により、登記申請書の作成は裁判所に提出すべき書類の作製として司法代書人の業務とされ、非司法代書人が登記申請書を業として作成することは代書人規則による取締りの対象となったこと、かかる司法代書人法及び代書人規則の制定により、司法代書人とそれ以外の代書人の職務範囲は、代書する文書の提出先が、裁判所であるかその他の官公署であるかにより区別されるに至ったこと、司法書士法は、従前の司法代書人法及び代書人規則と同様に、登記申請書の作成を司法書士の業務とし、また、非司法書士による登記申請書作成業務を取締りの対象としてきたこと、昭和26年の司法書士法改正により司法書士法19条1項但書が削除されたこと、他方、登記申請手続の代行ないし代理は、従前これを司法書士又は行政書士の業務として定めた法律は存在しなかったが、昭和42年の司法書士法改正により、司法書士の業務として明文化されると同時に非司法書士による登記申請手続の代行ないし代理業務が取締りの対象となったこと、行政書士の作成した書類の提出手続代行ないし代理は、昭和55年の行政書士法改正により行政書士の業務とされたが、対象となる書類は行政書士法1条の規定により行政書士が作成することができる書類に限定されているところ、前記のとおり登記申請書作成業務は、司法代書人法及び代書人規則の制定以来、従前の代書人の職務領域から分れて司法代書人の業務とされ、代書人が右業務を行うことは取締りの対象とされており、これは昭和25年の司法書士法全部改正以降も変りはなく、さらに現在、行政書士に登記申請書作成及び申請代行業務を認める明文が存在しないこと等に照らすと、法は、代書人として起源の同じ司法書士と行政書士が原則としてその職域や守備範囲を分業化した上で、専門的知識の必要な登記等に関する業務に関しては、原則として司法書士の排他的専門領域としていったものとみることができる。
2 このように、沿革上、登記に関する業務は、行政書士ではなく、司法書士に集中されたものとみられるが、その理由について考えるに、そもそも登記業務は、その公共性や技術性等からして、相当の法律的専門知識を有する者が取扱うことが公共性の強い登記業務を適正円滑に行わしめ、登記に対する国民の信頼を高めるという登記制度に内在する要請であるところ、司法書士は、資格取得に不動産登記法や商業登記法といった登記の専門知識の修得を必須とするなど登記に関し相当の専門知識を持つために登記業務を扱う十分な適格性を有する。これに対して、行政書士は、前身こそ司法書士と同じくするものの、行政書士制度の沿革等に照らし、主に行政官庁への提出書類の作成、私人間の権利義務関係や事実証明文書の作成等を専門とすること、行政書士としての業務を行うに当たっては、不動産登記法、商業登記法の知識が必ずしも必要的ではないこと、行政書士は、社会通念上、必ずしも登記等の専門家とはみなされていないこと等に照らせば、行政書士に対し登記業務を許さないことが不合理とはいえないのである。
3 そうすると、司法書士法19条1項、2条は、行政書士による登記申請代理ないし代行行為を一律に禁止しているものと解されるから、同法19条1項、2条が行政書士法1条2項の「他の法律」に該当し、したがって、いかなる場合(定型的で容易な作業とみられるもの)であっても行政書士が業として登記申請書の作成及び登記申請手続の代理ないし代行を行うことは、司法書士法19条1項(25条1項)に違反するものといわざるを得ない。」
行政書士と司法書士が業際を争った福島訴訟なんだが、司法書士の業務範囲は登記、供託の申請代理行為に限定されるがら、裁判所は司法書士の職域確保を優先したのかな・・登記事務は不動産登記は高額な物件の売買に伴う権利関係が当事者の特損に直結する問題になるんだが、こと商業登記については、定型的な申請が主たるもので、司法書士に職域を限定させることが公共の利益につながるものかという観点から裁判所は論じていないから、私的には、不十分な理由だな・・と思うがな・・
行政書士の業務は主に官公署に提出する書類の作成代理相談業務なんだが、その中に登記業務が含まれる旨は規定されていないから、行政書士法と司法書士法は対抗関係にあると思われるね。だから、このような問題はあくまで職域確保の観点から論するのではなく、あくまでも公共全体の利便性を考慮して柔軟に判断するべきだと思う。要するに、沿革というものも過去の軌跡に過ぎず、戦前ないし戦後直後の社会構造と現在は大幅に違ってきているから、昭和25年現在の司法書士法を基準に判断するのは一般社会の実勢から相当ズレていると思う。
そもそも論だが、司法書士は、戦前の司法省の管轄下にあった地方裁判所が管理した登記事務が司法省廃止後の法務省管理移動後そのまま代書業者として生き残った経緯がある。その戦前にあった省庁である司法省の名称をそのまま現在まで使用しただけのことで、現在の「司法」である裁判所や検察庁などとは関係がない。つまり、司法書士といネーミングは世間に間違った印象を与えかねず不適切というのが私の意見。
この福島訴訟の判決も、どうもそのような曖昧なイメージが前提となって、その曖昧な職域保護が目的になっているように思える。要は定型的な申請でも登記となれば有無を言わず司法書士の独占とすると使い勝手が悪く費用も割高だし不便で仕様がない。
まあ、私はそのように思うのだけど、社会全体的にはどのような印象を持たれるのかはよくわからない。